海の風、夏の風


 7月下旬、いよいよ夏休みの始まりです。
嫌が上にも心は躍ってしまいます。
この日、雅博は朝早くから千佳の家に来ていました。
今日はみんなで海に行くのです。
雅博はこの日を首を長くして待っていたのです。

信恵「おっ、みんなそろってるな〜」
千佳「お姉ちゃん、もうみんな準備できてるよ〜」
アナ「おはようございます、お姉さま」
茉莉「お姉ちゃんおはよう」
雅博「おはよう、今日はよろしくね」
信恵「おう、車の準備も出来たからそろそろ行くぞー」

信恵の言葉に、みんなは嬉しそうに外に出て行きました。
今日も前回のキャンプ同様、雅博が車を運転していくのです。
なので雅博はちょっとドキドキしていたのです。
外に出ると真夏の太陽の日差しがみんなを照り付けました。
雲ひとつ無い、快晴です。
鬱陶しい梅雨もあけ、いよいよ本格的な夏の始まりです。
青い空が、雅博の心をいつまでも明るく照らしていました。
そしてみんなは車の中に入りました。

信恵「みんな乗ったな〜、じゃあ出発〜!」
美羽「よっしゃー! 海へ一番乗りだー!」
千佳「そんな気合入れなくても…。 でも早く泳ぎたいもんね〜」
茉莉「楽しみだね〜」
アナ「はい、とても楽しみですわ〜」
雅博「じゃあ道案内、よろしくね」
信恵「おう、任せとけ」

雅博の隣には前回同様信恵が乗って道案内です。
まだ運転に不慣れな雅博に運転に集中してもらおうという信恵なりの心遣いです。
キーを挿し、エンジンを掛け、ミラーの確認。
そして、いよいよ出発です。
車庫からゆっくりと車を出し、海へ向かっての短い旅が始まりました。
車内は早くもボルテージが上がっていました。
美羽のテンションに、みんなもついていこうとしています。
でも雅博は、その声も聞こえないほど運転に集中していました。
今回も無事にみんなを海まで連れて行くこと、これが雅博の目標でもあったのです。

 それから20分、海が見えてきました。
今回行く海水浴場はここから更に30分ほど行った所にあります。
けれどもみんなは海を見たことで、早くも興奮していました。

千佳「あっ! 海だよ〜!」
美羽「お〜、これが海ってやつか〜」
千佳「いや、海見るの初めてじゃないだろ…別に」
茉莉「うわぁ〜、キレ〜だね〜」
アナ「本当、青くてキラキラしててとってもキレイですわ〜」
信恵「今から行く海はもっとキレイだぞ〜」
アナ「本当ですか!?」
信恵「うん、この辺じゃあ一番キレイな海だからね〜」
茉莉「わぁ〜、楽しみだね〜」
アナ「はい!」

茉莉ちゃんとアナちゃんは、目を輝かせていました。
そんな2人の姿を、信恵はバックミラーで笑いながら見ていました。
その信恵の横顔は、運転に集中する雅博にもしっかりと見えていました。
全開の窓から入り込む海風が、とっても心地いい時間でした。


 それから30分余り、目的の海に到着しました。
けれども一つ問題が生じていました。
駐車場がもうどこも一杯だったのです。

雅博「まさかもうこんなにいるとは…」
信恵「どっか空いてるとこ無いのかよ……」

みんなのテンションは一気に下がってしまっていました。
折角海を目の前にしてお預け状態は、子供たちには辛いようです。
さすがの美羽も大人しくなってしまっていました。
クーラーがガンガンに効いた車内で待つこと20分。
ようやく駐車場に車を停めることができました。

雅博「ん〜、やっと停められたね…」

車から降り、雅博は大きく伸びをしました。
みんなも一斉に車から降り、勇み足で海のほうへと駆けていきました。

千佳「おね〜ちゃ〜ん! 私たち先行って場所取ってるね〜!」
信恵「おうっ!」

はしゃいで砂浜を走っていく4人をにっこりして見送る信恵。
その笑顔は、母親のそれのように思えた雅博でした。

信恵「じゃああたしたちも準備して行くか」
雅博「うん、そうだね」

雅博は笑顔で応えました。
高くなってきた太陽は、既に雅博の頬に数滴の汗の筋をかかせていました。
灼熱のビーチは、もう既に海水浴客で一杯でした。
雅博と信恵が4人の姿を探していると、波の音に乗って千佳の声が聞こえてきました。

千佳「おに〜ちゃ〜ん!おね〜ちゃ〜ん! こっちこっち〜!!」

声のした方を向くと、そこにはもうビニールシートを敷き陣取っていた4人がいました。
他の人の陣地を避けながら近づいていくと、もう美羽だけ水着姿になっていました。

信恵「お前随分着替えるの早いな」
美羽「うん、待ちきれなくて昨日の夜から着てたから」
信恵「はっ? バカじゃねぇの?」
雅博「はは、それだけ楽しみにしてたんだね」
美羽「じゃああたし一番乗りしてくる〜!」

そう言うと美羽は浮き輪とゴーグルを装着して海へ走って行きました。
途中、こけました。

千佳「じゃあ私たちも着替えちゃおっか?」
茉莉「うん!」
アナ「はい!」
千佳「お兄ちゃん、あっち向いててね」
雅博「え? あ、はい…」

雅博は千佳に言われ、海の方を向きました。
みんなの裸はもう何度か見ていたのでそういう配慮は雅博にはありませんでした。
やっぱりそこは女の子、いくら見られた体とは言え、不必要に見られるのには抵抗があったのです。
巻きタオルを被り、後ろでごそごそと着替えをしている女の子3人。
雅博は遠い水平線を眺めながら彼女たちとのことを思い出してニヤニヤしていました。
と、そんな時、信恵が横槍を入れてきました。

信恵「あたしパラソル借りてくるからここ頼むな」
雅博「え、あ、うん…」

雅博の妄想を中断させ、信恵は海の家の方へ歩いていきました。
確かにこの暑さではパラソルがないと辛いかもしれません。
雅博は海ではしゃぐ美羽の姿を見ながら、流れた汗を手で拭いました。

千佳「お兄ちゃん、着替え終わったよ」

千佳の声につられて振り返る雅博。
そこには3人の水着姿がありました。
みんなの水着姿をみるのはこれが初めてです。
とても新鮮に思えました。
アナちゃんは可愛らしいフリルのついたピンク色の水着。
残念ながらセパレートタイプではありませんでした。
茉莉ちゃんと千佳はよく似合う紺のスクール水着。
雅博は何故か納得してしまいました。

雅博「おお〜、みんなよく似合ってるよ〜!」

雅博が本音を言うと、みんな頬を赤らめて嬉しそうにしていました。
スクール水着が似合うと言われて嬉しがるのは、やっぱり小学生なのでしょう。
と、その時、美羽が海の方からパタパタと駆けて来ました。
その美羽が着ていたのは赤いセパレートタイプのセクシーな水着。
でも胸の無い美羽の体は、お世辞にもセクシーとは言えませんでした。

美羽「おいお前ら、何だそのカッコは?」
千佳「え? 何って水着だけど…」
美羽「お前ら何年だよ? 高学年で学校の水着は無いだろ?」
千佳「だって、別にこれも水着なんだし、いいじゃん」
雅博「…そうだよ、これはこれでいいと思うよ?」
美羽「スク水オタは黙ってろ」
雅博「す、スク水オタ…?」
美羽「まあアナちゃんは許してやろう」
アナ「あ、ありがとうございます…」
美羽「お前らも高学年なんだからあたしみたいにセクシーな水着着たらどうだ〜?」

美羽がセクシーポーズととっていると、後ろにバサッとカラフルなパラソルが咲きました。
信恵が帰ってきたのです。

信恵「そういうことはペチャパイを卒業してから言おうな?」
美羽「なっ、ペ、ペチャパイ…!?」
千佳「ププッ…」
雅博「ううっ…」
美羽「そこー! 笑うなー!!」

みんな美羽を見ながら笑っていました。
海から流れる夏の風は、暑いながらもみんなを幸せな笑顔にしていたのでした…。


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