一番星をみつめて


 その後、湖畔の遊歩道を楽しみながらテントに戻ってきました。

信恵「あ〜、着いた着いた」
千佳「茉莉ちゃん、大丈夫? …って……茉莉ちゃん寝ちゃってる…」
茉莉「すー…」

茉莉ちゃんは雅博の背中ですっかり寝入ってしまっていました。
よっぽど疲れていたのでしょう。
雅博は自分の背中で眠る茉莉ちゃんが、なんだかとても可愛らしく思えました。
ゆっくりと起こさないようにテントの中に寝かせてあげました。
その寝顔は、まるで天使のような可愛らしいものでした。

雅博「茉莉ちゃん寝かせて来たよ」
信恵「おう。 ここまでご苦労だったな」
雅博「ううん、いいよ。 僕が役に立てるのはこういうことぐらいだから」
千佳「やっぱお兄ちゃんって頼りになるよね」
アナ「そうですわね。 それにお兄さまはとっても優しい方ですし」
雅博「そ、そうかな…?」
信恵「なんだ、あんたモテモテじゃんか〜」
雅博「はは、なんか嬉しいな」
美羽「でも不思議だよね〜。 それだけ優しくて頼りがいあるのに彼女いないなんて」
千佳「えっ…?」
雅博「っ…!」

雅博はハッとしました。
雅博にはもう彼女がいるのです。
目の前にいる千佳、それが雅博の彼女なのです。
その千佳も美羽の言葉に反応していました。
でも2人が付き合っているということは本人たち以外誰も知りません。
当然美羽もそれを知らずに言ったのです。
その後は、必要以上に意識してしまう2人でした。

信恵「それじゃあそろそろ夕飯の準備するか」
美羽「おっ、夕飯は何?」
信恵「カレーだよ。 やっぱキャンプって言ったらカレーだろ?」
アナ「え? そうなんですか?」
信恵「うん。 簡単だし美味いし誰でも好きだからね」
アナ「そうなんですの。 知りませんでしたわ」
美羽「そのカレーにはその辺にいるカエルを捕まえて入れるんだよ」
アナ「えっ!? そ、そうなんですか…?」
千佳「アナちゃん、ウソだからね…。 みっちゃんも変なウソ言わないでよ」
美羽「じゃあ今日はホントにやってみようぜ」
信恵「やらねぇよ。 そんなことより早く手伝え」

信恵はかまどを作っていました。
雅博はそのかまど作りを手伝い、女の子たちは紙の食器を準備しました。
そろそろ陽も傾き始める時刻。
夕飯作りには丁度いい頃合いです。
みんなは分担してカレーを作っています。
野菜の皮むきをする千佳と美羽とアナちゃん。
慣れない手つきでナイフで皮をむく彼女たちをほのぼのした気持ちで眺める雅博。
雅博はキャンプに来て良かったと思っていました。
もしあの時、千佳と美羽に出会っていなかったら。
もしあの時、美羽が自分に突っかかってこなかったら。
そう思うと、美羽の存在がいかに自分の運命を変えたのか再認識した雅博でした。


 それから1時間後…

信恵「よ〜し、これで完成だな」
千佳「やっとできたね」
雅博「ご飯の方も炊けたみたいだよ」
信恵「おう。 じゃあ早速飯にするか」
千佳「うん!」
アナ「お腹すきましたわ〜」
美羽「カエルは入れなくていいの?」
信恵「入れるか!」

風がそろそろ冷たくなってきていました。
辺りにはカレーのいい香が漂っていたいました。
その時、テントから眠そうな眼をこすりながら茉莉ちゃんが出てきました。

茉莉「ん…あれ……?」
千佳「あ、茉莉ちゃん、起きた?」
茉莉「私…寝ちゃったの……?」
信恵「うん、歩き疲れたんだね。 もう夕飯できたから食べよっか?」
茉莉「あ、うん……」

全員揃ったところでいよいよ食事です。
美味しそうなカレーの匂いが鼻腔をくすぐります。
みんな近くにあった適当な石や丸太に座って食べ始めました。
今日一日よく動いたのでみんなとてもお腹がすいているようです。

信恵「お〜、いい具合にできたな〜」
千佳「うん、おいしい〜!」
アナ「ホント、美味しいですわね」
茉莉「うん。 ちょっと熱いけど…」
雅博「ご飯もいい感じにできてよかったよ」
美羽「カレーってどうしてこう美味しいの?」
千佳「ん〜、おいしいから美味しいんだよ」
美羽「何だよそれ〜、答えになってないじゃんかよ」
千佳「美味しいんだからいいじゃん」
雅博「こうやって外でみんなで食べるから美味しいんだよ」
千佳「あ〜、そうかもね〜」
美羽「何で外で食べると美味しくなるの?」
信恵「いいからお前は黙って食ってろ」
美羽「はいはい」

みんなは笑顔でした。
千佳も美羽も信恵も茉莉ちゃんもアナちゃんも雅博も。
なかなか体験できない大自然の中でみんなで食べる夕食。
その味は今まで食べるカレーとは一味も二味も違っているのでした。

信恵「おっ、一番星…」
千佳「あ、ホントだ〜!」
アナ「空気が澄んでるからよく見えますわね」
茉莉「うん…キレイだなぁ…」
雅博「なんかロマンチックだね」
美羽「みんな上向いてるから口が半開きだよ」
千佳「星を見ろ、星を…」

みんなの頭上に輝く一番星。
辺りの静寂さに、静かな賑やかさを添ええているのでした…。


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