いつもの空気


 千佳の部屋に戻ると、そこには信姉の姿もありました。
今さっきあんな光景を見られてしまって気まずいことこの上ないです。
そんな雅博の気持ちを知ってか知らずか、信姉が言いました。

信恵「おう…一人で出来たか…?」
雅博「ち、違うんだよ、あれは……」
千佳「え? 何? どしたの…?」

千佳が何のことだか分からないというような顔をしています。

信恵「ああ、こっちのことだ、気にするな」
雅博「あれはただトイレに入ってただけで…」
信恵「まあ、そういうことにしといてやるよ」
雅博「うぅ〜…」
千佳「……?」

信姉の中では雅博は人の家でオ○る奴とされてしまったようです。
このままではもう居場所がなくなってしまうと心配な雅博。
けれども、信姉は特に蔑視するわけでもなく、ただ笑って見ているのでした。
そんな中、千佳が思い出したかのように言いました。

千佳「あっ、そういやみっちゃんは?」
信恵「ああ、あいつならあたしの部屋でまだ寝てる」
千佳「どうだった? 変なこととかしてなかった?」
信恵「ん、別に普段と変わらんかったな」
千佳「そっか。 みっちゃん大人しくしてたんだ…」
信恵「というかむしろ普段より大人しかったかな…?」
千佳「え、そうなの?」
茉莉「美羽ちゃんが…?」
雅博「ちょっと意外だね…」
信恵「ん〜、あいつ、なんかあたしを独り占め出来たのが嬉しかったみたいで…」

そうなのです。
美羽が昨日信姉の部屋で寝ると言ったのはお姉ちゃんを独り占めしたかったからなのです。
一人っ子の美羽にとって、身近な年上のお姉さんの信姉。
昔から一緒に遊んでいたりしてもやっぱり実の姉ではありません。
いつも側には千佳や茉莉ちゃんがいてお姉ちゃんを独り占めすることができなかったのです。
雅博は昨日のお風呂の時間に美羽から聞いたことを思い出したのです。

信恵「じゃああいつ起こしてくるか」
千佳「あ、いいよ、まだ寝かしといて」
信恵「……そうだな」
千佳「みっちゃん来るとうるさいもん…」
雅博「あのさ、ちょっと聞いていい?」
千佳「うん、いいよ?」

雅博は時を見計らって前から気になっていたことを聞き出しました。
その雅博の声に、一同が一斉に雅博に注目しました。
刹那、注目を集める快感が雅博の体を駆け抜けました。

雅博「千佳ちゃんと美羽ちゃんの付き合いってどれくらいなの?」
千佳「私とみっちゃん? えっと、幼稚園の頃からだよ」
雅博「あ、そうなんだ」
千佳「え…何で急にそんなこと聞くの?」
雅博「いや、別にちょっと気になっただけだよ……」
千佳「ふ〜ん」
雅博「えと…じゃあ茉莉ちゃんは?」
千佳「茉莉ちゃんはね〜、茉莉ちゃんが小学校に入ってからかな? 確かそうだよね?」
茉莉「え? うん、そうだよ」
雅博「そっか、それじゃあみんなもう付き合い長いんだ」
千佳「うん、みっちゃんとはクラスもずっと同じだし腐れ縁だよ」

千佳はそう言うとにっこり微笑みました。
雅博は、納得したように心の中で頷いていたのです。
と、その時、部屋のドアが開いて美羽が入ってきました。
と、その美羽のお腹は、枕を入れてあるのか大きく膨らんでいたのです。

美羽「ん〜……」
千佳「あっ、みっちゃん、おはよう」
美羽「ん、おはよ……って、なんでみんなもう起きてるの?」
千佳「いやだってもう7時過ぎてるよ? 平日ならもう起きてる時間だよ」
信恵「お前が遅いだけなんだよ」
美羽「だって遅くまでお姉ちゃんと夜のお楽しみしてたんだもん…」
信恵「してねぇよ」
美羽「じゃあこれは何? お姉ちゃんどうしてくれるの?」
信恵「…早いな」
千佳「ってかボケるの遅すぎ……」
美羽「お姉ちゃんってば全然寝かせてくれなかったんだもん…」
信恵「まだ続けるのか…?」
美羽「ってかもっと早く突っ込めよ! むしろお兄ちゃん帰れよ!」
雅博「はっ!?」

美羽のボケも不発に終わり、千佳の部屋にもいつもの空気が流れ込みました。
これがここの空気なのです。
千佳がいて、信姉がいて、茉莉ちゃんがいて、美羽がいて…。
そして雅博が加わったのです。
今までの空気と新しい空気とが交じり合った、そんな空気が暖かでした。
春のうららかさに負けないくらい、暖かい空気が、ここには流れているのです…。


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