どきどきディナー


 外はすっかり暗くなっていました。
雅博たちは外に出ると住宅街の坂道を下って行きました。

伸恵「そういやみんなで外で食うの久しぶりだな」
千佳「そだね、春休みの最初の頃行ったきりだもんね」
雅博「へぇ〜、よくみんなで外食するんだ」
千佳「お兄ちゃんは外食とかしないの?」
雅博「あ、そう言うわけじゃないけど…。 僕も高校の頃はファミレスとかよく行ったよ」
美羽「一人で?」
雅博「違うよ、友達とだよ…」
千佳「え? お兄ちゃんって友達一人もいないんじゃなかったっけ?」
雅博「うん、大学にはいないけど高校の頃の友達はいるよ」
美羽「なんだ、引きこもりじゃなかったのか」
雅博「だから、僕は最初から引きこもりなんかじゃないって」

街灯や民家の灯りが照らす夜の道。
その静かな住宅街に少女たちの黄色い声が響いています。
自然と千佳の隣に寄る雅博。
千佳もそのことに気付き、ちょっと含羞を帯びた表情をしています。
自分が意識されていることに、恥ずかしさを感じているようです。

雅博「あ、ところでさ、子供たちだけで外食とか大丈夫なの?」
信恵「うちの親は夜も出払ってることが多いし。 それにあたしがいるから大丈夫さ」
茉莉「私は今日はお泊りって言ってあるから大丈夫だよ」
美羽「あたしはちぃちゃんと運命共同体だから大丈夫だよ」
千佳「なんだそれ……。 それに今日はお兄ちゃんがいるし安心だよ」
雅博「え…? そ、そう…? じゃあ頼りないかもだけどこんな僕でよかったらみんな守ってあげるよ」
信恵「お、心強いな」
雅博「腕には自信ないけど…何かあったら僕がみんなを守るからね」
美羽「あんたがいる方が何かありそうなんだが」
雅博「え……?」

みんなで楽しく話をしていると、賑やかな通りに面したファミレスに到着しました。
一行が店内に入ると、角の6人掛けの席に通されました。

信恵「どう座る?」
美羽「あたしお姉ちゃんの隣がいいー!」
千佳「茉莉ちゃんはどこがいい?」
茉莉「え…えと……奥がいいな…」
千佳「じゃあ私は茉莉ちゃんの隣でいいよ」
雅博「それじゃあ僕は…千佳ちゃんの隣でいいよ」
千佳「……」
信恵「よし、みんな座ったな」
美羽「じゃあ今日はこれで解散か。 みんなまたね〜」
信恵「そうだな、じゃあ気をつけて帰れよ」
千佳「茉莉ちゃん何食べたい?」
茉莉「えっと……ハンバーグがいいな〜」
雅博「あ〜、それ美味しそうだねー」
美羽「……無視すんな!」
信恵「あれ? お前は帰るんじゃないのか?」
美羽「お姉ちゃんのイジワル〜…」

みんなに無視された美羽。
仕方無いので大人しくメニューを決めることにしたようです。
一方、美羽の向かいに座っている雅博は隣に座っている千佳を意識してドキドキしているようです。
その千佳は茉莉ちゃんと何を注文しようか迷っています。
信姉は胸ポケットからタバコを取り出すと一服始めました。
それを見た雅博は驚いて言いました。

雅博「…え? の、信恵ちゃん…!?」
信恵「ん?」
雅博「『ん?』って……タバコ……まだ高校生でしょ?…」
美羽「ああ、そんな細かいこと気にするな」
雅博「気にするとかそういう問題じゃないよ…ダメだよ……タバコなんて体によくないし…」
信恵「あっ、そっか……ここ禁煙席だったな…」
雅博「いやいやそういう問題でも…」

正義感の強い雅博は、善悪をきっちりしないといられないのです。
信恵のタバコも、高校生で吸うという行為はどうしても見ていられないのでした。

千佳「お兄ちゃん、無駄だよ。 お姉ちゃんはタバコ無しじゃあ生きていけないもん」
雅博「で、でも…」
信恵「分かった分かった、あんたの見てる前では吸わないことにしてやるよ」
雅博「……じゃあ約束してね?」
信恵「ああ、分かったよ。 そんなことより注文するもん決めたか?」
千佳「私と茉莉ちゃんはこの目玉焼きの乗ったハンバーグ」
信恵「じゃああたしは豪勢にこのヒレステーキにしよっと。 あんたは?」
雅博「えとじゃあ僕は……ヒレカツ定食でいいよ」
美羽「あたしビフテキね」
伸恵「ビフテキって…いつの時代の人間だよ」
美羽「……えへっ
信恵「『えへっ』じゃねぇ!」

注文が終わり、しばらく談笑のお時間です。
その間にも雅博は隣の千佳を意識してはドキドキしているのでした。
一方の千佳も、昼間のことを時々思い返しては雅博を意識してしまうのでした。
賑やかなファミレスで、誰にも知られてはいけない二人だけの秘密。
料理が来るまでの僅かな時間が、とても嬉しい雅博でした。


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