お泊りの時間


 夕方になり、蜆塚の地に真っ赤な夕陽が照っています。
雅博は帰り支度を終え、帰ろうと立ち上がりました。

雅博「それじゃあ僕はそろそろ帰るよ」

それを聞いた信姉が言いました。

伸恵「もう帰るのか?」
雅博「うん、今日は朝からいたからそろそろ帰らないと…」
伸恵「明日は休みなんだから泊まってったらどうだ?」
雅博「え、でも…」
千佳「うん、そうだよ、泊まっていきなよ、お兄ちゃん」
雅博「みんながそこまで言うなら…お言葉に甘えて泊まってこかな」
美羽「あたしは言ってないぞ」
雅博「えっ…」

みんなに勧められ雅博はお泊りをすることにしました。
みんなと会って1週間、その短い期間で女の子たちとここまで打ち解けられた嬉しさを感じていました。。

千佳「あ、でも着替えとかどうするの?」
雅博「あ、そっか……でもまあ着替えなら今着てるのでもいいよ」
信恵「まあ汗もかいてないみたいだしな。 それで十分だろ」
美羽「それじゃああたしもこれでいいや」
伸恵「え? お前も泊まるのか?」
美羽「当たり前でしょ? あたしがいなかったら誰がボケるの?」
伸恵「ボケなんていらねぇだろ」
千佳「私もそう思う」
雅博「うん、僕もそう思う」
美羽「いやあんたもボケだろ」
雅博「はっ!? 僕はボケなんかじゃないよ……」

こうして伊藤家に泊まることになった雅博。
昼間あった千佳とのことをどこか気にしている部分があるようです。
時々千佳と目が合うと、無性に恥ずかしくなってはお互い目を逸らします。
雅博は信姉や美羽にそのことがバレないか気がかりでならないようです。

信恵「泊まりするんなら茉莉ちゃんも呼んであげようか」
千佳「うん、そうだね。 みっちゃん、電話してあげて?」
美羽「えー? なんであたしが? あたしはちぃちゃんの召使いか?」
千佳「いいから電話しろよ。 泊まらせてやらないぞ」
美羽「ラジャー!」
雅博「はは、千佳ちゃんって時々言葉遣いがちょっと乱暴になるよね」
千佳「え? そうかな?」
雅博「うん。 美羽ちゃんに対しては特に」
千佳「それはみっちゃんが変なこと言ってくるからだよ…」

雅博と千佳は楽しそうに話をしています。
その様子を笑いながら横目で見ている信姉。
美羽は携帯電話で茉莉ちゃんに電話かけているようです。

美羽「あっ、茉莉ちゃん? 今日ちぃちゃん家でお泊りするんだけど来る?」
美羽「……うん、じゃあ期待しないで待ってる」
千佳「茉莉ちゃん来るって?」
美羽「……なんか知らないけどエイリアンに襲われてるみたい…」
千佳「なんだそれ…」
信恵「お前待ってるって言ってただろ」
雅博「茉莉ちゃん来るんだね」
美羽「あんたがいるって言ったら『それじゃあ行くのやめる』って言ってた」
雅博「えっ…ウソ!?」
伸恵「茉莉ちゃんはそんなこと言わんだろ」
雅博「そ、そうか…良かった……」

その言葉を聞いて、雅博はホッと胸を撫で下ろすのでした。
千佳は面白そうに笑っていました。
それを見て、雅博も一緒に笑うのでした。


 それから暫くして、茉莉ちゃんも加わって楽しいお泊りの始まりです。
外はそろそろ夕闇に包まれる時刻です。
部屋の明かりをつけて話に盛り上がる5人。
話題はそれぞれの学校での話になっているようです。

茉莉「始業式の日に外国人の子が転校してきたんだよ」
千佳「そうなんだ〜」
信恵「外国人か……小学校にもグローバル時代到来か」
美羽「どこの国? コスタリカ?」
茉莉「ううん、イギリスのコーンウォールとかいう所だって」
美羽「コーンウォール……」
伸恵「…お前は何を想像してる?」
雅博「茉莉ちゃんはもうその子と仲良くなった?」
茉莉「ううん……席は隣になったけどアナちゃん日本語分かんないみたいで…」
千佳「アナちゃんって言うんだ〜」
伸恵「やっぱりその……かわいいの?」
茉莉「うん、すっごくかわいいよ」
伸恵「そっか……かわいいのかぁ〜」
千佳「お姉ちゃん何想像してるの…」
茉莉「じゃあ仲良くなったら連れてきてあげるよ…」
伸恵「え!? ホント!? じゃあお願いね!!」
雅博「じ、じゃあ僕からもお願い…」
美羽「このロリコンが…」

茉莉ちゃんのクラスに転校してきた外国人美少女、アナちゃん。
未だ見ぬ天使に皆思い思いの想像を巡らすのでした。
そして今度は話は雅博の大学での話になったようです。

千佳「お兄ちゃんの大学って駅から近いあのでっかいところ?」
雅博「うん、俗に文芸大って言われてるとこ」
伸恵「あんな所へ一人で通ってるのか。 悲しい男だ」
雅博「うう……」
千佳「大学の授業ってどんなんなの?」
雅博「えと、授業は必修以外は選択式になってて自分の受けたい授業が受けられるんだよ」
千佳「そうなの? なんか面白そうだな〜」
雅博「確かに自分のやりたい授業が選択できるって点では小学校より楽しいかもね」
美羽「学食って美味いのか?」
雅博「そうだね……まあ値段の割りには美味しいかな〜」
伸恵「でも一人じゃあ何食っても美味くないだろ?」
雅博「……うん…」
茉莉「えと…大学生って休みが多いって本当?」
雅博「うん、春休みと夏休みはそれぞれ大体2ヶ月くらいあるかな?」
伸恵「2ヶ月!?」
千佳「そんな長いの?」
茉莉「いいな〜」
美羽「だからこんな引きこもりになるんだな」
雅博「いや僕は引きこもりじゃないから…」

女の子4人は大学生の休みの長さに驚いた様子です。
雅博はみんなに注目される快感がこんなに気持ちのいいものだと初めて感じたのでした。
今までは自分のこと、自分の身の上話はする機会がほとんど無かったのです。
そしてそろそろ夕飯の時間です。
夕飯は近くのファミレスへ食べに行くことにしました。
5人そろって初めての食事です。
雅博はうきうきしながら伊藤家を出たのでした。


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