新しい学校


俺と名雪は、朝食を食べ終わるとすぐに家を出た。

祐一「名雪……さっきの秋子さんの作った瓶の中身って…何なんだ？」
名雪「あれはイチゴジャムだよ」
祐一「は？　あれがイチゴジャムだって？」
名雪「うん、見た目は悪いけど味はすっごく美味しいんだよ」

あの見たことも無い色合いを放つ物体はイチゴジャムだったという。
名雪はそれをパンに塗って食べていた。
どう見ても人間の食べるものではないと思うが…。
まあ、味がいいなら今度試してみてもいいかもしれないな…。
俺たちは学校へ向かって歩き出した。
青く澄んだ空が、白い雪との程よいコントラストが眩しい。
子供の頃見慣れた風景が、今目の前にある。

名雪「今日も寒いね〜」
祐一「ああ…寒いな……」
名雪「ところで今日は始業式だから早く終わるよ」
祐一「ああ、大方予想はついていた」
名雪「でも私、部活あるから先に帰ってていいからね」
祐一「そうか、それじゃあそうする」

他愛も無い話をしながら雪道を歩いてゆく。
新しい高校へ行く不安が些か俺を心配させてゆく。
でも俺には名雪がいる。
独りではないということが、今の俺には強い見方だった。
川沿いの道や、大きな犬のいる家とかは昨日一昨日で昔の記憶を取り戻した。
でも高校への道のりは、かなり目新しい風景ばかりだった。
学校に着くまでに数人の女の子が、名雪に挨拶をしては俺のことを問う。
当然、彼女たちは俺のことは知らない。
名雪は俺のことを昔の友達だと言って紹介していた。
そして、新しい建物が印象的な学校に到着した。

名雪「到着〜。　ここが私たちの学校だよ」
祐一「ほう、随分広いんだな…」

それが俺の第一印象だった。
どこか近未来を感じさせる校舎に整備された前庭、そして広いグラウンド。
今まで俺が通っていた学校とはえらい違いだった。
と、そんな風に思っていると、後ろから誰かが声を掛けてきた。

女の子「あ、名雪〜おはよう」

振り返ると、カールのかかったロングヘアーの女の子が屈託の無い笑顔で名雪に挨拶していた。

名雪「あ、香里、おはよう」
香里「……誰？　これ」

香里と呼ばれた女の子は、すぐさま俺を見ると、当然のように聞いてきた。

名雪「祐一だよ、昔の幼馴染で一昨日こっちに引っ越してきたんだ」
香里「ふ〜ん、そうなんだ。　私は香里、よろしくね」
祐一「ああ、俺は相沢祐一だ」

香里はどうやら人当たりの良い性格らしい。
初対面でもそう感じられるほど気さくな感じだった。
名雪とは正反対の性格に思えるが。
見ている限りではとても仲がよさそうだった。
そして玄関に上がると、名雪が聞いてくる。

名雪「ところで祐一はクラスはどうするの？」
祐一「とりあえず職員室へ行ってみる」
名雪「そう、職員室はそこをまっすぐ行って右だよ。　一緒に行こうか？」
祐一「いや、俺は子供じゃない、一人で行ける」
名雪「ん、じゃあ気をつけてね」
祐一「……何をだ？」

胸にもやがかかる疑問を残して名雪と香里は手を振って２階へ登っていく。
俺は職員室目指して進軍を開始した。
そして、迷う余地もなく職員室に到着。
とりあえず近場にいた教師に事情を説明すると、俺の担任になる先生を紹介された。
メガネをかけた、中年のおやじだった…。
ちょっとガックリしたが、まあそれも仕方ない。

担任「君は今日から私のクラス２−Ａの生徒だ。よろしく頼むよ」
祐一「は、はあ、よろしくお願いします」

何をよろしく頼まれるのか分からないが、俺は時間まで先生と話をした。
私情やクラスの話、学校のことなど話をしていると、チャイムが鳴り、ホームルームの時間が始まった。
俺は担任についていく。
２年Ａ組は３階。
そして担任は教室へと入り、俺は合図があるまで廊下で待機。
マンガでもよくあるシチュエーションだ。

担任「えー、今日はこのクラスに新しく入ることとなった転校生を紹介する」
男子「おお！！　女の子か！？　だったらかわいい子がいいな〜」
男子「男じゃないだろうな？　男なんていらんぞ！」

これまたよくある野次を飛ばす男子ども。
かわいい女の子じゃなくて悪かったな…。

担任「静かに！　それでは、入ってきてください」

意を決して、俺は入り口のドアを開ける。
そして教室へと入ると、騒いでいた男子は一気に冷めていくのが分かる。

担任「それでは、自己紹介をしてください」

そう言われて、俯いていた顔を上げて自己紹介をする。

祐一「一昨日越してきた相沢祐一です、宜しくお願いします」

緊張しながらも、なんとか無難な自己紹介をする。
冷めていた男子も、いつしか普通に俺を受け入れてくれていた。
パチパチと、俺を迎える拍手が気持ちよかった。
そして改めてクラス全体を見回すと、そこには見慣れた人物の姿が。
それは、笑顔で手を振る名雪と香里の姿だった…。



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