たいやきと少女


…どうしたんだ?
俺は雪の歩道に倒れている。
目の前に同様に倒れている少女。
……そういえば俺は名雪と買い物に来ていたんだった…。
そしてここで名雪を待ってたらこの少女が突っ込んで来て倒れた次第だった。
とりあえず、起き上がるか…。

祐一「うう、痛ぇ……」

俺は徐に立ち上がると体中についた雪を手で払いのける。
すると目の前の少女も起き上がった。

少女「うぐぅ〜……痛いよ…」

少女は体をあげると俺の存在に気付いたようだった。

少女「あ……どうしてどいてくれなかったの…?」
祐一「いきなりそう言われて身を翻せるほど俺は俊敏ではない」
少女「うぐぅ……ぶつかっちゃったから痛いよ〜…」
祐一「そりゃそうだろ、こっちだって痛いぞ」

少女は自分がぶつかってきておいて俺が悪いと思っているらしい。
しかしそんな理不尽なことが許されていいはずがない。
俺がそれを正そうとした時だった。
少女が立ち上がって言った。

少女「あ! ボク追われてるんだった!!」
祐一「追われてる?」

少女の咄嗟の言葉に俺は正すタイミングを失ってしまった。
追われてるとは一体どういうことだろうか。

祐一「追われてるって…誰に?」
少女「い、今説明してる時間ないから行こう!」
祐一「え、え!? ちょ、ちょっと待て…」

俺は少女に売れを掴まれ走らされる。
この少女はどこへ行くんだ?
それに誰に追われてるんだ?
しかし今は謎の多き少女についていくしかなかった…。


少女「はぁはぁ……ここまでくればもう大丈夫だよね…」
祐一「…はぁ…どういうことか説明してもらおうか?」
少女「…うん……じゃあ話してあげるよ…」

少女はそう言うと思い口を開いた。
これだけ理不尽に走らされたのだからさぞかし納得のいく説明をしてくれるのだろう。

少女「あのね、ボクが商店街を歩いてたらお腹がすいたの」
祐一「それで?」
少女「そしたらたいやき屋さんがあったの」
祐一「…じゃあその紙袋はそのたいやき屋で買ったたいやきだな?」
少女「ううん、買ってないんだよ…」
祐一「え? じゃあ貰ったのか?」
少女「ううん、貰ってないよ」
祐一「……は? …ってことはもしかして…」

なんだか嫌な雰囲気が漂ってきたぞ。
この少女は窃盗罪という重大な罪を抱えた少女だ。
俺もこれ以上関わるとろくなことはない。
早々に立ち去ることにしよう。

祐一「じゃあ俺はこれで…」
少女「ちょっと待ってよ…まだ話は終わってないよ」
祐一「俺には関係の無いことだ、じゃあな」
少女「うぐぅ〜、待ってよ…これには訳があるんだよ…」
祐一「…どんな訳だ?」

すぐにでもここから立ち去りたかった俺だが、流石に俺もそこまで薄情じゃない。
訳くらい聴いてやってもいいだろう。

少女「うん…余りにもお腹がすいてたからたいやきを買おうとしたの」
祐一「それはさっき聞いた」
少女「でもお金が無かったの…」
祐一「…じゃあどうしてその紙袋を持ってるんだ?」
少女「それで後でお金を払うつもりでたいやきだけ先に貰ったの…」
祐一「…それを世間では窃盗と言うんだ」
少女「でもホントにお金払うつもりだったんだよ〜」
祐一「それでもダメなもんはダメなんだ」
少女「うぐぅ……」
祐一「…さっきお前を追ってたのはたいやき屋のおやじだろ?」
少女「え? よく分かったね〜」
祐一「話の流れで誰だって想像つくっての。 まあ済んだことは仕方ない、後で謝りに行くんだな」
少女「…うん、分かったよ……」
祐一「っと、用は済んだな。 じゃあ俺はこれで…」

俺は商店街へ向けて踝を翻した。
…しかし、何かがおかしい…。
……ここ、どこだ?
俺はこの迷惑少女に引っ張ってこられた所為でここまでの道のりを覚えていない。
昨日7年ぶりにこの町に戻ってきた俺には全く見当もつかない場所だった。
…仕方ない、この迷惑少女に自分の蒔いた種を回収させるか…。

祐一「おい、商店街までの道を教えてくれ」

俺がそう聞くと少女は驚いたように言い返した。
少女「え? 君が知ってるんじゃないの?」
祐一「なんで俺が知ってるんだよ。 俺はお前に連れてこられたんだ、お前知ってるはずだろ」

少女「…ボクも分からないよ……無我夢中で走ってたから…」
祐一「はぁ? …お前も分からないのか?」
少女「うん……」

……最悪だった…。
俺はこの迷惑少女と二人、この寒空の中知らない場所で立ち往生。
俺は心底困り果ててしまった…。



        

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