街の記憶


名雪「まだ持ってたんだ、このオルゴール…」
祐一「…まあな」
名雪「なんかちょっと嬉しいな…」

名雪はオルゴールを手に取り見つめている。
俺はその様子を横で見ている。
その表情はとてもにこやかで、7年前見たあの笑顔と同じものだった。
7年という歳月も、お互い微塵も感じていないかのように、どこか通じ合っている気がした。
久しぶりに会っても、お互い小さい頃と本質的に変わっていなかった。
そのおかげですぐに打ち解けることができたのだろう。

祐一「名雪は全然変わってないよな…」
名雪「祐一だってそうじゃん」

こういうところも、二人そろって変わっていないんだよな(笑)

祐一「ところで学校は明後日からだよな?」
名雪「そうだよ。 明日は日曜じゃん」
祐一「……やっぱ学校は行かなきゃならないのか?」
名雪「…別に私は構わないよ、祐一が学校来なくても」

何気にひどい事を言ってる気がするが…。

祐一「まあそれは冗談だけどな。 それで何を持っていけばいいんだ?」
名雪「とりあえず教科書とノートとそれと筆記用具があればことは足りると思う」
祐一「飯はどうすんだ? 給食が出るのか?」
名雪「出ないよ…。 お母さんが多分お弁当作ってくれると思うよ」
祐一「本当か? それじゃあ悪くないか?」
名雪「大丈夫だよ、どうせ私のお弁当も作るんだし」
祐一「それじゃあお言葉に甘えさせてもらうとするかな」

秋子さんの作る弁当か…。
美味そうだな〜、なんだか今から弁当が楽しみになってきたぜ(笑)

名雪「あ、そうそう、明日ってすることないでしょ?」
祐一「ああ。 荷物も片付いたしな」
名雪「それじゃあ明日一緒に商店街行こ?」
祐一「商店街か。 いいけど、何か買うのか?」
名雪「うん。 陸上部の備品を買わなきゃならないから」
祐一「備品? お前が買うのか?」
名雪「うん、私一応陸上部の部長だから」

俺は耳を疑った。
この鈍臭いマイペースな天然の名雪が陸上部だって?
しかも部長ときたもんだ。
俺は思わず笑ってしまった。

祐一「ははは、お前が陸上部の部長だって?」
名雪「何が可笑しいの?」
祐一「いやだってトロいお前が陸上部でしかも部長だなんて可笑しいだろ」
名雪「そんなことないよ。 ちゃんと練習もしてるし部長の役だってしっかりこなしてるもん」

名雪はちょっと機嫌を損ねたようにいつになく強い口調で言った。
本当に役が務まってるのか分からないが、陸上部だっていうのは本当のようだ。

祐一「まあいいや。 明日は一緒に行ってやるから」
名雪「うん。 それでついでにこの町のことも思い出してもらおうと思って」
祐一「思い出すって…7年前までここに住んでんだから覚えてるだろ」
名雪「忘れちゃってるかもしれないじゃん」
祐一「そういうもんかね〜」
名雪「うん、そういうもんだよ」

まあ確かに7年前とはいえ俺もまだ小さかったしな。
現に今思い出そうと思ってもこの街のことはあんまり思い出せない。
ここは素直に名雪に案内を頼んだ方がよさそうだな。

祐一「それじゃあ明日の案内はお前に任せた」
名雪「うん、任された」

名雪には得意げな笑みがこぼれた。
さっき機嫌を損ねたのをもう忘れてしまっているようだ。
こういうところが名雪らしいんだよな〜。

名雪「じゃあ私は宿題があるからもう行くよ」
祐一「ああ。 宿題頑張れよ」
名雪「うん」

そういうと名雪は部屋から出て行った。
名雪の座っていたベッドの上には、あの想い出のオルゴールがそっと置かれていた。
俺はそのオルゴールを手に取ると何気なく机の上に置いた。
殺風景だった机の上に、そっと想い出が花開いた気がした。



         

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