水瀬家の人々


 コンコン…

誰かが部屋をノックする音が聴こえる。

名雪「私だけど入ってもいい?」

どうやら名雪のようだ。
ここはひとつイジワルしてやるか(笑)

祐一「ダメだ! 入るな!!」
名雪「え…なんで〜?」

予想しなかった返答だったのか、間の抜けた声で聞いてくる。

祐一「今やってる最中だ」
名雪「何を?」
祐一「……そう、ナニをだ…」
名雪「……あ、そう…。 頑張ってね…」

俺の言わんとしてることが分かったようでちょっと引き気味に狼狽している。
…いや待てよ、このままでは俺は誤解を生んだまま名雪と生活することになる。
居候初日からそれでは気まずいこと極まりない。
俺は自分のした軽率な行動を反省し、ドアを開け名雪を呼び止める。

祐一「名雪、嘘だ嘘。 今のは俺が悪かった…」
名雪「ホント? 本当にしてないの?」
祐一「当たり前だろ。 いくら俺でも他人の家でそんなはしたない真似はしない」
名雪「ならいいけど。 あ、そうそう、お母さんが呼んでたよ」
祐一「秋子さんが?」
名雪「うん。 荷物も片付いたでしょ? ちょっと話があるんだって」

俺は名雪に言われ、すぐに1階へと降りてきた。
この家の間取りは今でもよく覚えている。
小さい頃毎日のようにお世話になった家だからな。
俺はとりあえずキッチンから覗いてみた。

祐一「秋子さん………っていないか…」

どうやらいないようだ。
俺は次に和室を覗いてみた。
するとそれに気付いた秋子さんが話しかけてくる。

秋子「あ、祐一さん。 お片付けは終わりました?」
祐一「はい。 一通り終わりました」
秋子「それじゃあそこに座ってもらえるかな」

大きな木製の机の上で洗濯物を畳んでいた秋子さんが俺を向かいに座らせる。

秋子「お引越し、ご苦労様」

満面の笑みで俺に労いの言葉をかける。

祐一「はい、これからお世話になります。 それで話って…」

俺がそう切り出すと秋子さんは手を止めて話し出した。

秋子「そうね、まず何から話したらいいかしら…」
祐一「そんなにいくつもあるんですか…?」
秋子「ええ、今まで祐一さんがどんな暮らしをしていたのかも聞きたいし…」

秋子さんは何やら楽しそうに思いを馳せているようだった。
俺は秋子さんのこのマイペースさが変わりないことに、心が和んだ。

祐一「俺は別にそんな特別な暮らしをしてたわけじゃないですよ…」
秋子「うふふ、そうみたいね。 あ、そうそう、これだけは言っておこうと思ってたの」

その何か特別な物言いに、俺は息を呑み構える。
秋子さんのことだから変な要求を求めないでもない。
しかし、彼女の要求は意外なものだった。

秋子「祐一さんもこの家に居候する以上は水瀬家の家族。 分かってくれる?」
祐一「は、はい…」
秋子「それとね…名雪のことなんだけど…。 あの子のこと、よろしくね」
祐一「え…?」

それはどういう意味なのだろう…。
まさか名雪と付き合ってくれ、または結婚してくれって意味なのだろうか…。
秋子さんなら言いそうだけど…でも、まさか…。
俺はこの言葉の真意がわからなかった。

秋子「祐一さんはこの家で唯一の男の人、だから…」
秋子「何かあったら祐一さんに守ってほしいの」

そういうことか…。
確かに俺はこの家では唯一の男手となる。
名雪の父親は実は俺も知らない。
というのも、名雪が3歳の時に亡くなったそうだ。
その頃から秋子さんは名雪を女手ひとつで育ててきた。
その苦労は大変なものだったことだろう。
この家に居候させてもらう以上はこの家を守るのは俺しかいない。
名雪や秋子さんを守れるのはこの俺しかいないのだ。

祐一「分かりました。 俺がこの家の男になりますよ」
秋子「ふふ、ありがと。 それじゃあこれからよろしくね」

話が終わると俺はその場を後にした。
そうか…この家では男は俺しかいないんだよな…居候する以上は頼りにならなきゃな。
俺は割り当てられた部屋へと戻って行った。

祐一「…あ、名雪……なんでいるの?」
名雪「…これ……懐かしいな〜。 今でも覚えてるよ、あの頃」

名雪が手にしていたのは、紛れも無い想い出のオルゴールだった。
その綺麗な音色が、また…部屋に響いていた。



        

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