雪の想い出


 白い世界だった。
その駅を出て、雪の積もる町へと降り立った。
ここは懐かしの土地。
嘗て俺が住んでいた町。
もうあれは7年も前のことだった。


      *


女の子「ねえ、本当に行っちゃうの?」
男の子「うん、お父さんが転勤になったんだって…」
女の子「そんなの嫌……淋しくなっちゃうもん…」
男の子「僕だって嫌だよ。 でも…仕方ないんだ…」

 二人の子供たちが、雪の舞い降りる冬空で向かい合う。

男の子「もう僕行かなくちゃ…」
女の子「………」
男の子「じゃあね…名雪ちゃん…」

 駅前のロータリーで、二人別れを交わす。

名雪「待って…祐一くん……」
祐一「名雪ちゃん…」
名雪「これだけは約束して……」

 雪雲の蔽う静かな昼下がり、少女が最後の願いを伝える。

名雪「また……ここで会おうね…」
祐一「……うん…」

 最後の一言を残して、少年は駅の中へと消えていった…。


      *


 俺は一人の少女と約束をした。
この町へ戻ってくることを。
その時は、また戻ってこれるとは思っていなかった。
もう、二度と会えないものだと思っていた。
けれども、両親の海外転勤の都合で俺はこの町へと戻ってくることになったのだ。
海外への高校には俺は行く気にはなれなかった。
言葉の問題もあるが、やっぱり俺は日本が好きだ。
住み慣れた場所を離れるのは心淋しいが、俺のお世話してくれる家がこの町にある。
幼馴染の、あの少女の家。
小さい頃から両親も親交があったので、俺の高校生活をお世話してくれるそうだ。
そうして俺は、この町へ戻ってきた。
あの嘗て約束を交わしたこの町、この雪の空の下へ…。

祐一「…ちょっと早く来すぎたか」

 時刻は午後1時を回ったところ。
待ち合わせは1時半になっている。
俺はあの想い出の少女を、ここで待っていた。
寒い…。
昼間とはいえ、雪の降る北国の冬は寒い。
積もった雪を払いのけ座ったベンチが冷たい。
凍える息で両手を温め、じっと例の少女を待つ。

少女「待った?」

凍える手を見つめていた俺を、誰かが覗き込んで声を掛けてきた。
顔を上げて見てみると、それは一人の少女だった。

祐一「…名…雪……?」
名雪「うん……祐一…」

雪の降る想い出の場所で、二人の約束が果たされた……。



      
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