クモの糸


 俺は夢を見た。








 全身にまとった白いクモの糸が、俺を蝕んでいた。
徐々に俺の体内に入り込むその糸は、俺の神経を麻痺させていた。










 どれくらい経ったのだろうか。
俺の体内に巨大なクモが卵を産んだ。
その巨大グモの卵が孵ったのはよく分かった。
体内でうごめく気持ちの悪い感覚。
むずむずするような、何とも言えない感覚。
ベッドに縛り付けられるように、俺はその孵ったクモの餌食になった。
体が動かない俺を、孵ったばかりのクモが糸を巻いていく。
糸を巻きつけるごとに大きくなるそのクモは、ついには1メートルを超える大きさになった。
気色の悪い色の体からやたら太い脚が何本も出ている。
その脚には細い無数の毛。
虫唾が走るような感覚に、俺は何度意識を失いそうになったか分からない。
いっそのこと、意識を失ってしまった方が楽かもしれない。








 何十回、何百回と糸を巻きつけ、俺をベッドに貼り付けにする巨大なクモ。
その表情は何を言っているのか全く分からなかった。
赤く光る怪しい瞳で、俺を見つめるだけである。
余りの圧迫感に、俺が意識を失いそうになるとクモの糸が徐々に体内に入ってきた。
全身に針を刺されるような激痛が幾度となく襲った。
けれどもその痛みも、今はもう無い。
感覚が麻痺し、もう痛みすら感じなくなっていた。
そしてそのクモの糸からはまた、新しい卵が産み付けられる。
体内で繰り返される孵化。
厚く巻かれた白い糸が、更に厚くなってゆく。
白い糸から発せられる悪臭で、鼻ももう利かなくなっていた。
体が麻痺する感覚にも、もう慣れていた。
俺はこのまま死ぬのだろうか。
遠い意識の中、俺は輪廻の時を永遠に生きていた。








 突如、部屋に現れたのは、1円玉大の小さなクモ。
クモ嫌いの俺は、ためらうこと無くそのクモを退治した。
その気味の悪い姿を見なくて済むように泡で固めるスプレーで。
近頃は便利な殺虫スプレーが出来たものだ。
往生際悪くもがく害虫の姿を見ずに退治できるのだから。
俺は何事も無かったようにその死骸を片付け、床に着いた。
生き物の魂も、人間の魂と同じということを俺はこの夜学ぶことになる。





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